最小権限とは
最小権限は、人やツールに、その仕事に必要なだけの権限を与え、それ以上は与えないという考え方です。間違いや乗っ取りが起きたときの被害を小さくし、だれが何をできるかを分かりやすく保てます。
この記事でわかること
- 最小権限がどんな考え方かを説明できる
- ロールで権限を分ける仕組みと、小さなチームで役立つ場面がわかる
- メンバーの見直しや、API キー・連携・AI のツールの権限の絞り方を知る
目次
最小権限は、人やツールに、その仕事に必要なだけの権限(できること・見られる範囲)を与え、それ以上は与えないという考え方です。英語では principle of least privilege と呼ばれ、情報セキュリティの基本の原則の一つです。
たとえば、教室のアルバイトのスタッフに、教室の鍵は渡しても、事務所の金庫の鍵までは渡しません。Web のサービスでも同じで、申し込みを見て返信するだけの人に、請求の設定やメンバーの削除までできる権限は要りません。権限を絞っておくと、間違いやアカウントの乗っ取りが起きたときに、被害の届く範囲が小さくなります。
- 仕事を書き出す「申し込みを見て返信する」
- 必要な権限を選ぶ見るだけか、編集もするか
- ロールで渡す閲覧者・編集者・管理者など
- 定期的に見直す要らなくなった権限を外す
最小権限とは、どんな考え方なのか
米国の NIST(国立標準技術研究所)は、最小権限を「利用者や、利用者に代わって動くプロセスのアクセス権限を、割り当てられた仕事に必要な最小限に制限する」原則と説明しています(NIST の用語集)。人だけでなく、連携したアプリや AI のツールのように、人に代わって動く仕組みにも、同じ考え方が当てはまります。
日本の IPA(情報処理推進機構)の「組織における内部不正防止ガイドライン」は、重要な情報へのアクセスについて、次の 3 つを必要最小限にするよう勧めています。
| 絞るもの | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 人 | 権限を持つ人を、必要な人だけにする | 受講生の名簿を見られるのは、講師と事務の担当だけ |
| 権限 | 持たせる権限を、仕事に要るものだけにする | 名簿は見られるが、書き出しや削除はできない |
| 期間 | 権限を持つ期間を、要る時期だけにする | 繁忙期だけ手伝う人には、その期間だけ渡す |
小さなチームで、なぜ大切なのか
人数が少ないと、「全員が何でもできる」設定にしがちです。手間はかかりませんが、次のような場面で困ります。
- 間違い: 編集だけのつもりの人が、設定を変えたりデータを消したりしてしまう。できることが少なければ、間違えられることも少なくなります。
- 抜けた人: 辞めた人や、仕事を終えた外の協力者のアカウントが残っていると、あとから入られるおそれがあります。IPA のガイドラインは、異動や退職で要らなくなった ID とアクセス権を、ただちに消すよう求めています。
- 共有のアカウント: 1 つのアカウントを何人かで使うと、だれが何をしたかが分からなくなります。1 人が抜けるたびに、パスワードを変える必要も出てきます。
- 乗っ取り: フィッシングなどでアカウントを乗っ取られても、相手ができるのは、そのアカウントに許された操作だけです。管理者のアカウントが乗っ取られると、被害は組織全体に広がります。
ロールとは何か
ロール(役割)は、よく使う権限の組み合わせに名前を付けたものです。一人ずつ権限を細かく選ぶ代わりに、「閲覧者」「編集者」「管理者」のようなロールを人に割り当てます。この仕組みは、ロールベースのアクセス制御(RBAC)と呼ばれます。
多くの仕事のサービスには、次のようなロールがあります。名前と中身はサービスごとにちがうので、それぞれの説明で確かめます。
| よくあるロール | できることの例 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 閲覧者 | データを見るだけ | 数字を確かめる人、相談に乗ってもらう人 |
| 編集者・メンバー | データを作る・直す | ふだんの作業をする人 |
| 管理者 | メンバーの招待、ロールの変更、請求、連携の設定 | 組織の運営を担う人 |
| オーナー | 管理者の権限に加え、組織の削除など | 事業の責任者 |
ロールを使うと、人が増えても一人ずつ設定する手間が減り、仕事が変わったときはロールを付け替えるだけで済みます。ちょうどよいロールがないときは、広すぎるロールより、狭いほうから始めて足すほうが安全です。
大事な操作では、1 人に全部を任せない「職務の分離」という考え方もあります。たとえば、請求書を作る人と支払いを承認する人を分けると、1 人の間違いや不正が、そのまま通りにくくなります。
ふだんの運用で、何をすればよいのか
メンバーを定期的に見直す
権限は、一度決めたら終わりではありません。仕事や体制が変わると、必要な権限も変わります。時期を決めて、メンバーの一覧とロールを見て、「この人に、この権限はまだ要るか」を確かめます。たとえば、オンライン講座の開講前だけ手伝ってもらった人に、管理者のロールが残っていないかを見ます。IPA のガイドラインは人事異動の時期にまとめて見直す例を挙げ、NIST も、割り当てた権限を定期的に見直して、要らないものを外すよう求めています。
抜けた人の権限は、すぐに外す
辞めた人や、契約が終わった協力者のアカウントは、早めに外します。人が抜けるときの手続きの中に「アカウントと権限を外す」を入れておくと、忘れにくくなります。共有のパスワードを知っていた人が抜けたときは、そのパスワードも変えます。
管理者の権限は、使う人と場面を絞る
管理者の権限は、それが要る人だけに渡します。大きな権限を持つアカウントほど、乗っ取られたときの影響も大きいので、ほかの人と共有せず、パスキーや二段階認証で守ります。パソコンでも、ふだんは管理者ではない標準のユーザーで使い、ソフトを入れるときだけ管理者の権限を使う、という分け方ができます。
API キーや連携は、用途ごとに絞る
ツールどうしをつなぐ API キーや連携にも、権限があります。
- 読むだけで足りるなら、読み取りだけの権限にする
- 用途ごとに別の API キーを作り、使わなくなったら失効させる
- 連携のときに出る「許可する範囲」の画面を読み、仕事に要らない範囲が入っていないか確かめる
API キーの扱いは「API とは」、連携のときの許可の仕組みは「OAuth とは」で説明しています。
AI のツールにも当てはまるのか
当てはまります。AI のツールに、メールを送る、データを書き換える、といった道具を使わせるときは、人と同じように権限を絞ります。
- 読むだけの作業には、読むだけの権限を渡す
- 使う人自身の権限を超えさせない(その人ができない操作は、AI に頼んでもできないようにする)
- 取り消せない操作の前には、人が中身を見て承認する
AI のツールに必要以上の権限を持たせると、AI の判断の誤りや、AI が読んだ文章に紛れ込んだ指示(プロンプトインジェクション)が、思わぬ操作につながりかねません。くわしくは「AI エージェントとは」で説明しています。
まとめ
- 最小権限は、人やツールに、仕事に必要なだけの権限を、必要な期間だけ渡す考え方です。
- 小さなチームでも、間違い、抜けた人のアカウント、共有のアカウント、乗っ取りによる被害を小さくできます。
- ロールを使うと、権限を分かりやすく割り当て、仕事が変わったときに付け替えられます。
- メンバーの定期的な見直し、抜けた人の権限をすぐ外すこと、API キー・連携・AI のツールの権限を絞ることを、習慣にします。
mukumo では、メンバーごとにできることを分けられますか
mukumo(ムクモ)では、設定の「メンバー」からメールで人を組織に招待し、そのときにロールを選びます。ロールにはオーナー・管理者・メンバー・閲覧のみがあり、閲覧のみの人はデータを見るだけ、メンバーはサイトやキーワードなどを編集できます。招待とロールの変更、プランと請求、監査ログ、API キーと連携は、オーナーと管理者だけが扱えます。自分のロールは、だれも変えられません。
メンバーを削除すると、その人は組織に入れなくなります。AI アシスタントの muku(ムク)に頼んでも、自分のロールでできない操作はできません。
よくある質問
最小権限にすると、仕事が止まりやすくなりませんか
権限が足りずに仕事ができないのも困ります。仕事に合わせて権限を決め、足りないときは理由を聞いて足し、一時的に要る権限は期間を区切って渡すと、安全さと進めやすさを両立しやすくなります。
1 人で事業をしている場合も、関係がありますか
あります。制作会社や税理士など外の協力者に渡すアクセス、連携したアプリ、API キー、AI のツールに渡す権限は、1 人で仕事をしていても増えていきます。何に、どこまで許可しているかを、ときどき確かめましょう。
辞めた人のアカウントは、削除と停止のどちらがよいですか
サービスによっては、アカウントを削除すると、その人が何をしたかの記録まで消えることがあります。そのような場合は、まず停止してログインできないようにし、記録を残す方法があります。IPA のガイドラインも、この点に触れています。
管理者を 1 人だけにしておけば、いちばん安全ですか
そうとは限りません。管理者が 1 人だけだと、その人が休んだり、アカウントに入れなくなったりしたときに、だれも設定を変えられなくなります。管理者は必要な人だけにしつつ、1 人だけにはしないほうが安心です。