音声合成とは
音声合成は、文字で書かれた文章をコンピューターが声にして読み上げる技術です。読み方や抑揚が決まるしくみと注意点を知ると、読み上げや音声の案内を安心して使えます。
この記事でわかること
- 音声合成が何をする技術かを説明できる
- 読み方・抑揚・待ち時間が、聞きやすさを左右する理由がわかる
- 声をまねる技術の注意点と、アクセシビリティへの役立て方を知る
目次
音声合成(TTS:Text-to-Speech)は、文字で書かれた文章を、コンピューターが声にして読み上げる技術です。スマートフォンの読み上げ機能、駅や電話の自動音声、動画のナレーション、声で話せる AI など、身の回りの多くの声が音声合成で作られています。
いまの合成音声は、人の声と聞き分けにくいほど自然になりました。しくみを知っておくと、読み間違いの直し方や、会話に使うときの工夫、声をまねる技術と付き合うときの注意点がわかります。
- 文章を受け取る「4月1日10時からです」
- 読み方を決めるしがつ ついたち じゅうじ
- 声の設計図を作る音の高さ・長さ・強さを予測
- 音にするボコーダーが音の波を作る
音声合成は何をしているのか
音声合成は、録音しておいた声を流すのとは違い、渡された文章をその場で声にします。たとえば、ヨガ教室が「台風のため、明日の朝のクラスはお休みです」という案内を電話の自動音声で流したいとき、録音し直さなくても、文章を書き換えるだけで新しい案内を作れます。
かつては、人の声を細かく切って録っておき、それをつなぎ合わせる方式が中心でした。いまは、大量の声と文章の組から学んだニューラルネットワーク(大量の例から学ぶ計算のしくみ)が声を作る方式が広く使われ、つなぎ目の不自然さが大きく減りました。
音声合成は、たとえば次のような場面で使われます。
- オンライン講座の教材や、小さな会社のお知らせを声でも届ける
- 営業時間外の電話で、休みや受付時間を自動の音声で案内する
- 動画に、文章から作ったナレーションを付ける
- 画面を読み上げて、目の見えにくい人がサイトを使えるようにする
音声合成はどう動くのか
文章を「読み」にする
最初の仕事は、文章をどう読むかを決めることです。数字・日付・記号・略語は、書いてあるままでは読み方が決まりません。「4/1 10:00〜」は「しがつ ついたち じゅうじから」と読む必要があります。
日本語では、漢字の読み分けも大切です。「1日」は「ついたち」とも「いちにち」とも読み、「今日」は「きょう」とも「こんにち」とも読みます。音声合成は、前後の文脈からどちらが合うかを選びます。
読み方が決まったら、アクセント(音の高低)と区切りを決めます。日本語には、「橋」と「箸」のように、音の高低で意味が変わる言葉があります。
声の設計図を作り、音にする
次に、モデルが「どの高さの音を、どれくらいの長さと強さで出すか」という声の設計図を作ります。設計図には、音の高さごとの強さを時間に沿って並べたもの(メルスペクトログラム)がよく使われます。最後に、ボコーダーと呼ばれる部分が、設計図から実際の音の波を作ります。
最近は、音を短い記号の並びとして扱い、続きの記号を予測しながら声を作るモデルもあります。文章の続きを予測する大規模言語モデル(LLM)と似た考え方です。
声の自然さは何で決まるのか
自然に聞こえるかどうかは、声そのものと話し方の両方で決まります。
- 声:高さ・太さ・かすれ方など、その人らしさを作る音の質
- 抑揚(プロソディ):文の中での音の上がり下がり、速さ、間の取り方、強調
同じ声でも、抑揚が不自然だと機械らしく聞こえます。問いかけの終わりが上がらない、区切る場所が違う、大事な言葉が埋もれる、といったことが起きると、内容も伝わりにくくなります。
読み間違いや不自然な抑揚は、次のような方法で直せることが多くあります。
| 困ること | 直し方の例 |
|---|---|
| 教室の名前や人の名前を読み間違える | 読み方の辞書に登録する。ひらがなで書く |
| 数字や日付の読み方が違う | 「4/1」ではなく「4月1日」のように書く |
| 区切りがなく聞き取りにくい | 文を短くする。読点を足す |
| 大事なところが目立たない | 間や強調を指定できる機能を使う |
開発の場面では、W3C(Web の標準を決める団体)の SSML(音声合成マークアップ言語)という標準で、読み方・間・高さ・速さ・音量などを文章に書き添える方法も使われます。どこまで指定できるかは、サービスによって違います。
会話で使うときは何が大事か
声で話せる AI や電話の自動応答では、返事が始まるまでの待ち時間が大切です。10 の言語の会話を比べた研究では、話し手が交代するまでの間は、平均で 0.2 秒ほどでした。人はこの短い間に慣れているので、返事が遅れると、聞こえなかったのか、通じなかったのかと不安になります。
声で話せる AI の多くは、音声認識で文字にし、LLM で返事を作り、音声合成で声にします。どの段階にも時間がかかるので、次のような工夫で待ち時間を短くします。
- 返事を全部作り終える前に、最初の文から声にし始める(ストリーミング)
- 返事を短くして、長い説明は画面や文字に任せる
- 相手が話し始めたら読み上げを止めて、話を聞く
声だけで伝えるのに向かない内容もあります。URL や長い番号、表は、耳で聞いただけでは覚えにくいので、文字でも送ると親切です。
声をまねる技術とどう付き合えばよいのか
音声合成では、特定の人の声に似せた声を作ることもできます。これをボイスクローンと呼ぶことがあります。数秒から数十秒の録音で、本人に似た声を作れるモデルやサービスもあります。
役に立つ使い方もあります。たとえば、病気で話す力を失うおそれのある人が自分の声を残しておき、打った文字をその声で話す、という使い方です。スマートフォンにも、そのための機能が入っているものがあります。
一方で、声はその人のものです。事業で使うときは、次の点を守ると安心です。
- 声を使わせてもらう人から、使い道・期間・取り下げ方を書いた同意をもらう
- 合成した声だと、聞く人にわかるようにする
- ほかの人、特に有名な人の声をまねて宣伝に使わない(権利の侵害になるおそれがあります)
- 声の作り方や使い方の決まりを、サービスの利用規約で確かめる
大手のサービスには、声の持ち主が同意の言葉を読み上げた録音がないと、声を作れないものもあります。
まねた声を使った詐欺にも備えておきます。家族や取引先、上司を名乗る電話で、お金や秘密の話が出たら、いったん切って、知っている番号にかけ直して確かめます。声が似ているだけでは、本人とは限りません。
読み上げはアクセシビリティにどう役立つのか
音声合成は、文字を読むことが難しい人にとって大切な道具です。目の見えない人や見えにくい人は、画面の内容を声で読み上げるソフト(スクリーンリーダー)で Web サイトを使います。文字を読むのが苦手な人や、小さな文字が読みづらい人、手や目がふさがっている人にも、読み上げは役立ちます。
自分のサイトを読み上げで使いやすくするには、次の点を押さえます。
- ページの言語を指定する(
<html lang="ja">)。W3C のウェブ・アクセシビリティのための開発のヒントでも勧められています。言語がわかると、スクリーンリーダーはその言語の発音のルールで読めます - 画像には、内容を言葉で伝える代わりの文(代替テキスト)を付ける
- 見出しを使って、ページの組み立てを伝える
- 「こちら」ではなく、行き先がわかる言葉をリンクにする
教室の申し込みフォームやオンライン講座のページも、読み上げで聞いたときに順番どおりに意味が通るかを、一度確かめておくと安心です。
mukumo では音声合成をどう使っていますか
mukumo(ムクモ)の AI アシスタントの muku(ムク)では、返答の「読み上げる」を押すと、その返答を声で聞けます。受話器のボタンから「電話する」を選ぶと、muku と声で話せます。電話を頼んで、あとで muku からかけてもらうこともできます(アプリを開いているときだけ鳴ります)。
読み上げと電話は、組織のクレジットを使います。同じ返答をもう一度聞くときは使いません。声の処理には外部の AI サービスを使います。
よくある質問
合成した音声を、動画や広告に使ってもよいですか
サービスによって決まりが違います。商用の利用を認めていないサービスや、声ごとに条件があるサービスもあるので、利用規約を確かめてから使います。
音声合成の料金はどう数えますか
パソコンやスマートフォンに入っている読み上げ機能は、追加の料金なしで使えることが多くあります。クラウドの音声合成のサービスは、声にした文字数で数えるものが多くあります。
日本語以外の言語も話せますか
多くのサービスが複数の言語に対応しています。ただし、言語や声によって自然さや読み間違いの多さが違うので、使う言語で試してから決めます。
人が録音したナレーションと、どう使い分ければよいですか
内容をよく変える案内や、量の多い読み上げには音声合成が向いています。動画の顔になる短い語りのように、声の表情を大切にしたいところでは、人の録音を選ぶこともあります。